「何か・・・すげー眠い・・・」
達也が大きなあくびをした。
「たっちゃん、一眠りしていった方がいいんじゃん?」
「うん・・・・でも・・・・帰らなくちゃ・・・・・・」

と言いながら達也は深い眠りに陥った。

ふっ〜と小さくため息をつき、杏子はそっと
運転席の達也の左腕を触ってみる。
細身なのに筋肉いっぱいの、大好きな腕。
反応がない。
「ホントに寝ちゃったんだ。」
杏子は少しの間、両手で達也の腕をなでた。
両手でなくては包みこめないほど太い腕。
“やっぱり、ししゃもみたい”
そっと唇びるを押し当てた。

数分前、達也の車の中でふたりで一緒に杏子が
持ってきたコーヒーを飲んだ。
達也の紙コップには睡眠導入剤を入れておいた。
同じポットから注がれたのだから、達也は何一つ、
疑わなかった。
と言うか、杏子が思い詰めた気持ちで今日、会っている
事すらこれっぽっちも想像していなかっただろう。。
付き合っている間、達也が杏子の気持ちを考えた事など
ないと思う。杏子は始めのうち、達也が杏子を思う気持ちが
それほどでもないからそうなのだと思っていた。
が、達也は他の人にもそうだと言うことがわかってきた。

めんどくさいからほっとく。そして、うやむやになるか、
誰かがどうにかしてくれるかのどっちかを待つ。
ずっとうそうやって生きてきたのだろう。

達也が窮屈そうなので杏子は運転席のシートを倒した。
仰向けになった達也は口を開けて寝ている。

“間抜け”

杏子はそっと助手席のドアを開け、車を降りた。


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