どの角度がいいだろう・・・
車を一周して場所を決め、携帯で写真を撮る。
達也の車だとわかるように、そして、それが会社ではない所に
停まっているのがわかるように。

杏子は助手席に戻り、次は何だっけ、と考えた。
手順を間違えてはいけない。やり残しがあってはいけない。

杏子は達也の左手の薬指から指輪をはずした。
それをどうするかは決めていなかった。
車のどこかに隠しておくか、持ち出してしまおうか。
とりあえずポケットに入れた。

達也のポケットから携帯を出し、少しの間、
受信メールを見る。
妻のかおりからのメールは
「帰りに○○買ってきて」
「塾のお迎え。10時半」
など、絵文字も何もないものだった。
杏子との送受信は全て消されている。

何時間もかけ、時には泣きながら日にちをまたいで考え、
送ろうかどうか散々迷った後に意を決して送ったメールも、
愛してるとたくさんのハートマークがついた数え切れない程の
メールも、達也は見たら直ぐに捨てる。とっておく事はない。
それは仕方の無いことだとわかっている。

杏子は電話帳からかおりの登録を削除した。
そして、登録外着信拒否の設定をする。
電話をかけても出ない、と言うほうが面白いかとも
思ったが、作業の途中でかかってきてはめんどくさい。

次は・・・
杏子は一旦、達也の携帯を置き、自分のに持ち替え
保存フォルダに作っておいたメールにさっき撮った
達也の車の写真を添付する。
「ご主人、女の人といますよ。余計な事だったら
ごめんなさい」
宛先はもちろんかおりだ。アドレスにXXを加え、
差出人が杏子だとわからないようにした。

知らないアドレスからのメールをかおりが見るか
どうかが心配だったが、見なければ見ないで別にいい。
それでも出来れば見て欲しいので、題に
「林田です(・v・)」 
と、かおりの知り合いの名前を入れておいた。

杏子は助手席の背もたれを少し倒し、目を瞑って待った。


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