杏子は達也をチラッと見る。寝ている。
今は開いた口から少しよだれも出ている。

“ほんと、間抜け”

かおりからだった。
「どこにいるの?」

何度か電話をかけて通じないのでメールをしてきたのだろう。
メールも拒否設定をしようかと思ったが、反応が見たかった。

見たんだ、送ったメール。

杏子は達也の携帯のアドレス変更の操作をした。
何にしようかどうか随分迷ったが、

「yuujuu-fudan-otoko@」
にしておいた。
「I-shiteru-kyou」
にしようかと思ったが、今更いいかと思いやめた。
操作中に2回着メールがあったが、無視した。
かおりからだろう。

アドレスが変り、これでかおりからはメールも届かなくなった。
電話帳を真っ白にする事・携帯自体を捨ててしまう事も
考えたが、犯罪のような気がしたのでやめた。

今、やってることでも十分犯罪かな、とも思うが
今まで杏子が流してきた涙を思えば神様も許してくれる
ような気がする。わからないけど。

杏子は達也の携帯を寝ている達也のポケットに
戻した。
「さようなら。風邪、引かないうちに、奥様、迎えに来て
くれるといいね。」

杏子はティッシュで達也の口元を拭き、車を降りかけたが、
ふと思いつき、ズボンのベルトを緩めチャックを開けた。

“たっちゃん、間抜け過ぎ”

杏子は車を降り、自分の車に乗る前に、達也の車のドアをロックする。
そのキーをどうしようかと思い、まっ、いいか!と
公園の繁みに投げ込んだ。
奥様に助けてもらえばいい。あなたの大事な、わがままで
自分勝手な奥様に。


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