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車を走らせながら杏子は思った。
達也の罰は終わった。
杏子にうそをついた罰。
好きでもないのに、好きだと言った罰。
杏子を、こんなことをさせてるまでに追い込んだ罰。
かおりも巻き込んでしまったことは悪いと感じている。
しかし、達也に罰を与えるには、かおりをはずしては
考えられなかった。
「苦しいときも悲しいときも共に手をとり・・・」と誓った
夫婦なのだから仕方ないよ。
かおりは達也が毎日帰ってくることを当たり前だと思い、
自分の為に働くこと・買い物の運転手・行列に並ぶ事を
当たり前だと思っている。執事のようだ。
達也以上に世間知らずで気が利かず鈍感な人。
達也がそう言っていた。
達也を大切にしないかおりが悪い。だから浮気されるんだ。
そして、決して要領が良いとは言えない夫の浮気に4年も
気づかないのが悪い。
杏子は、達也の事だからすぐに何かミスをし、かおりに
ばれてしまうと思っていた。
かおりは想像以上に鈍いのかもしれない。
が、やはりかおりには罪はないと今は思う。
悪いのは達也と私。
「さてっと、次は、私だわ」
杏子も罰を受けなければならない。
毎日、起きてから寝るまで時間があればメールをくれた。
会社の行きかえり、昼休み、家に帰ってからもお風呂の中から
布団にもぐりながら
週末の休みの時でも、家族の目を盗んで送ってくれた。
携帯を手離せなかった。
日々を重ねる毎に、週末のメールが来なくなり、
昼休みのメールが来なくなり、おやすみのメールが
来なくなり、最近では、
「行ってきます」 と 「終わった」 だけになった。
メールが来ないことを淋しく思い、やっと来たメールから
感じる素っ気なさに怒りを覚えるようになった。
わずかな時間でもやりくりして会っていたのが、週に3日になり、
2日になり1日になった。
2週間近く会えない時もある。会えないんじゃなくて、会おうと
言う努力をしないのだと理解した。
仕事が忙しくなったのは本とだが、状況はさほど変っていないはず。
十日に一度、愛し合っていたのが、2週間に一度、1月に一度になった。
終わりにしたければ、言ってくれればいいものを、達也は自分からは
言わない。自分はあくまでも良い人でいたいから。
杏子が淋しさに耐え切れずに別れを言うのも待っている。
4年の間には淋しさから何度も別れ話になった事がある。
初めのうちの喧嘩は
「愛してるんだ。淋しい思いをさせてごめんね」
その言葉だけで杏子は待てた。
それだけで淋しさも苦しみも忘れられた。
その言葉を聞きたかったのだ。
喧嘩の後しばらくの間は達也もメールを豆にするようにするが、
すぐにまた、その間隔が長くなっていく。
約束したことを守ってはくれなかった。
三年を過ぎた頃からの喧嘩の時には
「杏子が淋しいなら苦しいなら終わりにした方が
いいのかな。」
まるで杏子の事を1番に考えてるみたいな言い方をした。
変ったのは達也の気持ちなのだろうか。
本とは達也は何も変らないのかもしれない。最初から
一番大切なのは家族だと言っていた。
「一番大切なのは家族でいいから、一番好きでいて欲しい」
杏子は言った。
「私は私の事を一番好きじゃない人とHなんかしたくない」
「わかった。一番好きになる。」
変ったのは杏子の方かもしれない。
達也しか見えず、「家族が一番大切」と言う言葉さえ、
それでも私を好きなのね と自分勝手に解釈した。
達也の全てを許せていたのに、のぼせていた頭が冷静になると、
何でこんなに我慢しなくちゃならないのだろう
と思うようになった。
達也がその辺の浮気男となにひとつ変らないのだとわかった。
たまに会ってHが出来ればいい。
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