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土曜日の午後、信行は近くの温水プールに娘を送り、
その間に妻と買い物をする予定だった。
妻は最近、変った。
子供が少し大きくなり、自分の時間が取れるようになって、
髪を伸ばし、染めたり巻いたりするようになった。
信行にも関心を持つようになった。
そんな妻の変りように、信行の外に向いていた気持ちが
家に戻って行ったのかもしれない。
プールの駐車場に入り、車をとめ、妻も降りて娘を
プールの入り口まで送っていった。
妻が戻って来るのが見えたので、タバコを消してエンジンをかけた。
妻が助手席に乗り、車を出そうとすると右から一台の車が
来るのがわかったので、出るのを待った。
車は信行の車の前に、通せんぼするように横向きに止まった。
由美だとわかった。
なんだろう?
信行は少し不安になる。
由美が降りてきて運転席の信行を手招きする。
どうしようか迷ったが行かないのも不自然だ。
「なんだろうね」
と妻に言いながら降りた。
そのあと起こった事を少しずつ思いだした。
「久しぶり」
由美が言った。
「あっ、うん。」
信行は気まずそうに言う。
「ごめんね。仲良く一緒のところ」
「あっ、ちょっと、娘、送ってきたから。」
「そう、さよならを言いに来たの。あなたが言いに来て
くれないから。」
「あっ・・ごめん・・・」
妻が不思議そうに2人を見ている。
信行がチラッと妻を気にしたのが切っ掛けになった。
由美は背が高い信行の顔に手を伸ばしても、
大して力が入らないと思った。
「あなたが悪いのよ。二人で会えればこんな事にならなかったのに。
私だって奥様の前でこんなことしたくなかったんだよ。」
由美はまず、右足を振り上げ足の甲で股間を蹴り上げた。
うっと言って信行が両手で股間を押さえ、うずくまって頭が少し
低くなったところでグーで左頬を殴った。
信行はぐらっと自分の車にもたれ掛かった。
痛がる信行とポカンとする妻に、
「あ〜〜〜すっきりした! ほな、さいなら」
と、振った手は予想以上に痛かった。
そしてその手で流れる涙を拭った。
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