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レジに向かおうとして、あっと思った。
一番・・・に近いくらい会いたくない人がいた。
が、ここまで近づいてしまっていて、今更無視は不自然だと思い
仕方なく声をかけた。小さくひとつ深呼吸をしてから。
「こんにちわ」
「あっ、こんにちわ」
サオリは今、気づいたように言ったが、サオリも声をかけようか
どうかタイミングを見ていたのかもしれない。
「遥希の靴下を買いにきたの。」
アサは言った。
サオリを美人だと思うが、センスが悪いと会うたびに思う。
何でそんな色なの?なんでそんな組み合わせなの?美人なのに
もったいない、と思う。
サオリには人として魅力を感じない。(アサはそう思う。)
それはセンスが良くないからではなく、内面から感じる魅力が
無いと言うか・・・
知識とか教養とかではなく、生きてる過程で、いろいろな経験から
得られる心の豊かさを感じない。
守られて生きてきたのだろう。何一つ自分で努力することなく、
ちょっと困った時には親がすぐに助けてくれる。
結婚も親が相手にプローポーズしてくれたそうだ。
“娘との結婚を考えているのか。考えているなら付き合ってる時間は
無駄だから早く結婚しろ。”
お酒の席で、言われた当の本人が言っていたのだから嘘ではない。
笑える。
それに従う方もどうかと思うが。
アサは常に葛藤と淋しさの中でひとり生きてきた。
ずっと自分だけの力で生きてきたと思っていたが、実際には
多くの人に助けられていたのだと、人の親になってからわかった。
孤独から多くの事を学び、それは強さと優しさに育ち、
感謝の気持ちを持てるようになった。
アサはチラッとサオリが持っているカゴを見た。
サオリもアサのカゴを見たのがわかった。
サオリの目に入ったのは靴下ではなくブラの方だろう。
アサの口は考える前に言っていた。
「これは私の。 こういうのってなかなかAカップのがなくて・・・
見つけたから買っておこうと思って。」
「誰に見せるわけじゃないんだけど」
と付け加えたが、
「ひとり以外は」とは付け加えなかった。
「じゃ、お先に」
と言ってレジに向かう。
参ったな・・・何時かしらと、と時間が気になった。
下りのエスカレーターに乗り一階へ降り、出口に向かいながら
アサは思った。
“今夜のシュウとのデートに、今買った下着を着て行こう。
シュウは・・・新しい下着を履いてくるかな。
サオリが今、買っているあの黒いボクサーパンツ。”
そして、
“靴下・・・小さかったかしら。” とちょっと心配になった。
遥希は中学に入ってから急に背が延びた。
小学生のころは小さい方でいつも前の方に並んでいたのに。
この頃は小柄なアサは遥希と話す時に少し見上げなければならない。
走るのが好きで、今日も県大会へ向けて一生懸命、陸上部で
走っているだろう。
忙しくならないと良いな、と呟き車に乗り込んだ。
出来れば、仕事が終わったら一度家に戻ってシャワーをしてから
出かけたい。
アサは助手席にあるさっき買った下着が入っている袋に
チラッと目をやりウフッと微笑んだ。
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