「わかりました。」 と言った後、西村は少し小声になり
「ごめん、今日は行けそうもない」 と言った。
西村も店の電話からかけているようだ。
恐らく回りに誰がいる訳でもないのだろうが、
個人的な話はやはり後ろめたさを感じるのだろう。
西村は社員で、お店を4つ受け持っている。
お店はほとんどパートとバイトで動いているが、それを
管理する責任者と言う立場である。
里香がパートを始めるときに面接したのが西村であった。
里香は責任者の若さに驚いたのだ。
こんな若者に使われるのかぁ、と思った。
しかし、テキパキとした対応、それでも事務的なだけでは
なく、軽く冗談も言い、いい感じだと思った。
採用が決まり、一から仕事を教えてくれたのも西村
だった。
「うん、わかった。」 里香も小声で答えた。
こちらも誰に聞かれる訳でもないのだけど。
「お疲れ様です」 と言い、受話器を置いた。
西村が来たとしても、仕事以外の事を話せる訳では
ないが、近くにいるだけで、顔を見られるだけで、
同じ仕事をしているだけで、里香は幸せな気分になれる。
少し沈んだ気分で店内に戻ると立ち読みの客が
2人増えていた。
時計を見ると10時10分前。
レジ内のお金の点検を始めた。
2つあるレジのうち、ひとつがマイナス5円だった。
前の人がやった点検のレシートを見ると、やはり
マイナス5円になっていた。
よかった。と里香はホッとした。
自分が出したマイナスではなかった。
深夜の勤務の人が出勤してきたので、
里香は「上がりますね」 と言い、
事務所に戻り、タイムカードを押し、制服を脱ぎ
勤務を終えた。
疲れた・・・
同じ時間、起きているのでも家でTVを見ているのを
仕事をしているのでは、やはり疲れ方が違う。
まして、今日は西村に会えなかった・・・
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