「お先に失礼します」 バイトに声を掛け、外に出ると
  携帯が鳴った。
  西村からだった。

  「はい」
  「お疲れ様。終わった?」
  さっきの声とは違う。
  西村も仕事を終え、外でかけてるのだろう。

  「うん、終わった」
  「里香、ごめんね。今日、行けなくて・・・」
  「大丈夫。ちょっと寂しかったけど」
  「俺も寂しかったよ。行きたいんだけどもう少しかかる
  んだ。里香、塾のお迎えでしょ?」
  「うん。そうなの。」

  里香は、西村が里香の予定をわかってくれている所も
  うれしい。
  「気をつけてね。今度の休みはいっぱい話してチュウしようね」
  「うん。いっぱいね」
  「じゃ、ホントに気をつけてね。愛してるよ、里香」
  「へへッ、ありがとう。恭ちゃんも気をつけるんだよ。
  お疲れ様」

  電話を切り、車に乗った。
  さっきまでの沈んだ気分が吹き飛びウキウキしていた。
  「全く・・・電話一本でなんでこんなにうれしいんだか・・・」
  フッと笑ってしまう。
  この年になって恋をするとは思わなかった。
  しかもパート先の年下と。
  里香は西村が今までもパートさんとこんな関係になって
  いたのかなと思い、一度聞いた事がある。
  「初めてだよ。俺も自分がこんなこと出来るなんて信じられ
  ない」
  と言っていた。

  嘘なのだと思う。
  嘘でもいいかなと思う。
  今、里香は西村が好きで仕事も楽しいから。さて、


  「塾に行かなくちゃ。」


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