10時を2分ほど過ぎて約束の場所に着き直子の車を
  探す。
  レストランの店員から死角になる店の裏側の端に居た。
  小林は隣に車を止め、前後左右を確認してから直子の
  助手席に乗り込んだ。

  「おはよぉ」
  直子が前を見たまま言った。
  「ん、おはよぉ」
  小林は助手席の椅子を倒しながら言った。

  車を出しながら直子は言った。
  「さっきお店の人がゴミ捨てに来て、チラッと
  こっちを見ていったけど、大丈夫かしら、車」
  「そうなの? 車が代わってるから大丈夫だよ。
  見られたのは君の車で今、停めてるのは俺のだから。
  他にも停まってたし。」
  と言いつつ、小林は少し心配になった。
  「そうね。いつものところ?」
  「あぁ、そうだね」

  平日の昼前でも、ラブホテルにはけっこうな数の車が
  いる。

  部屋が2つ空いていた。小林は「こっちでいい?」と
  言う目で直子を見たので、いいよとうなずいた。


  いつもの手順で、特別の変化も無く行為は終わる。
  さすが先生!エッチも教科書通り・・・
  
  この男は「夫は一生、妻だけを愛するもの」と教え
  ればそれに従うのだろうに、小林はどこでどう
  人生の参考書を選び間違えてしまったのか
  「男は浮気をするもの」
  との知識を得てしまったようだ。それも中途半端な。

  小林はベッドから降り、汗を流しにシャワーに向かう。

  直子は、身支度を始めた。
  小林は直子の下着を誉めたりしたことなど一度もない。
  小林が見てるのは直子の裸の身体だけだ。
  それも一部だけかもしれない。
  「もう少し、勉強すれば良いのに・・・女心とエッチ。
  勉強は、仕事にするほど得意なんだろうから。」

  小林の携帯が着メール有りと光っている。
  見たりはしない。
  もうそれほどこの男に関心はない。


次項    前項