「ようすけは、今度個別クラスに代わるから、塾でも
  あなたに会わなくてすむわ。ごきげんよう。」

  直子は身体を伸ばして小林を押し出すように降ろし、
  助手席のドアを閉めた。
  ゆっくり車を出しながら、携帯を出し小林のアドレスを
  削除した。
  グループ「塾先生」のフォルダには、今度の担任の
  アドレスが登録されている。
  
  小林はボーッとしたまま、直子の車を見送った。
  直子に対して、自分は何を間違っていたのだろうかと
  考えたがわからなかった。

  ポケットに手を入れ、携帯を開いた。
  妻からだった。
  「明日の土曜日、仕事が休みになったから、亮太が
  観たいって言ってた映画に行こうと思うの。
  あなたも大丈夫でしょ?」

  右手で「了解」とメールを打ちながら、左手でポケットから
  車の鍵を出した。
  車に乗りながら、何か忘れているような気がしたが思い
  出せなかった。
  まぁ、いい。忘れるくらいだからどうせ大した事じゃない。


  「幼稚園、行かなくちゃ」

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