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塾の駐車場の入り口には誘導する先生が立っている。
駐車場は狭いのでタイミング良く着かないと校舎前に停められず、
道路の反対側のホームセンターで待たなくてはならない。
前の車が入れたのに自分は入れなかったり、自分は入れないのに
次の車が入れたりする。
里香は今日はついているみたいだ。赤い棒が校舎前に入るように
指示している。息子の担任の・・・名前がなんだったかな。
たしか・・・小林先生だ。
小林はまだ寝ていたかった。
夕べも帰りは2時近かった。それから風呂に入り、ビールを飲み、
布団に入った。
小腹も空いていたが、夜中に食べるのは控えている。
まだ、メタボと言う言葉とは無縁でいたい。
リビングから妻と幼稚園に通う子供の声が聞こえる。
今、起きなくては親子3人で食事する時は無いので、
がんばって身体を起こした。
「おはよぉ」 元気良く言ったつもりが声がかすれてしまった。
もぅ、ふたりは出かけるところだった。遅かったか。
「あっ、パパ、いってきま~す」
「あら、あなた。もう少し寝てればいいのに。お迎えはお願いね。
行ってきます。」
「あぁ、わかってる」
妻は子供を幼稚園に預け、そのまま仕事に行く。
2時の幼稚園のお迎えは小林が仕事前に行き、四時過ぎに帰って
くる妻と入れ替わりに塾に出勤する。
時計を見る。8時を過ぎたところだった。
もう一眠りする時間はないな。
小林は思った。
いつもなら迷わず布団に戻るところだか、今日は約束がある。
10時だったな。
逆算してみる。
9時半に家をでる。支度に20分。髭くらい剃らなくては。
朝ご飯も少し食べたい。
やっぱし寝る時間はない。
10時を2分ほど過ぎて約束の場所に着き直子の車を探す。
店内の店員から死角になる店の裏側の端に居た。
小林は隣に車を止め、前後左右を確認してから直子の助手席に
乗り込んだ。
「おはよぉ」
直子が前を見たまま言った。
「ん、おはよぉ」
小林は助手席の椅子を倒しながら言った。
車を出しながら直子は言った。
「さっきお店の人がゴミ捨てに来て、チラッとこっちを
見ていったけど、大丈夫かしら、車」
「そうなの? 車が代わってるから大丈夫だよ。見られたのは
君の車で今、停めてるのは俺のだから。他にも停まってたし。」
と言いつつ、小林は少し心配になった。
「そうね。いつものところ?」
「あぁ、そうだね」
平日の昼前でも、ラブホテルにはけっこうな数の車が
とまっている。
部屋が2つ空いていた。小林は「こっちでいい?」と言う目で
直子を見たので、いいよとうなずいた。
いつもの手順で、特別の変化も無く行為は終わる。
さすが先生!エッチも教科書通り・・・
この男は「夫は一生、妻だけを愛するもの」と教えれば
それに従うのだろうに、小林はどこでどう人生の参考書を選び
間違えてしまったのか
「男は浮気をするもの」
との知識を得てしまったようだ。それも中途半端な。
小林はベッドから降り、汗を流しにシャワーに向かう。
直子は、身支度を始めた。
小林は直子の下着を誉めたりしたことなど一度もない。
小林が見てるのは直子の裸の身体だけだ。
それも一部だけかもしれない。
「もう少し、勉強すれば良いのに・・・女心とエッチ。
勉強は、仕事にするほど得意なんだろうから。」
小林の携帯が着メール有りと光っている。
見たりはしない。
もうそれほどこの男に関心はない。
小林は腰にタオルを巻いてシャワーから戻り、ベッドの
デジタル時計を見た。
直子も釣られて目をやった。
1時20分。真っ昼間。
「今日も幼稚園にお迎え?」
「あぁ、ちょうど良い時間だ」
着替えて、車を留めてあるところに戻って幼稚園に行くと
ちょうど2時頃だろう。
小林は携帯をしまおうとして、着信に気づいたがそのまま
ポケットに入れた。
「ちゃんとパパなのね。出ましょうか」
朝の駐車場に戻り小林の車の横に停まる。
車は普通にあり、店員が出て来て咎められる事もなかった。
辺りを見回し、助手席から降りかけた小林は
「また、連絡するよ」
と言った。
「連絡は・・・もぅいいわ。」
小林は不思議な顔で直子を見た。
「受験が近いから?」
小林は聞いた。
直子は子供の受験と自分の恋愛は関係ないと言った。
「私は、私の事だけを愛してくれる人がいい。
そりゃ、奥さまが居るのは承知の上よ。奥様は別もの。
私、焼きもち焼きだから、嫉妬であなたを刺す前に終わりに
するわ。あなたの為に犯罪者になりたくないもの。さよなら」
焼きもちも嫉妬も嘘だが、そう言っておいた。
最近、小林の事で噂が流れている。
塾に通う子供の親と必要以上に親しくしていると。
直子はドキッとしたが、耳にした話によると、
噂になっている相手が自分ではない事がわかった。
ホッとしたと同時に終わりにしようと決めた。
今日はもう一度だけ自分の気持ちを確かめようと会ってみた。
小林が優しい言葉のひとつもかけてくれたら、いつもと違うHを
してくれたら、別れるのはもう少し先でもいいと思っていた。
結局、会った意味はなかったようだ。
「ようすけは、今度個別クラスに代わるから、塾でもあなたに
会わなくてすむわ。ごきげんよう。」
直子は身体を伸ばして小林を押し出すように降ろし、助手席の
ドアを閉めた。
ゆっくり車を出しながら、携帯を出し小林のアドレスを削除した。
グループ「塾先生」のフォルダには、今度の担任の
アドレスが登録されている。
小林はボーッとしたまま、直子の車を見送った。
直子に対して、自分は何を間違っていたのだろうかと
考えたがわからなかった。
ポケットに手を入れ、携帯を開いた。
妻からだった。
「明日の土曜日、仕事が休みになったから、亮太が
観たいって言ってた映画に行こうと思うの。
あなたも大丈夫でしょ?」
右手で「了解」とメールを打ちながら、左手でポケットから
車の鍵を出した。
車に乗りながら、何か忘れているような気がしたが思い出せ
なかった。
まぁ、いい。忘れるくらいだからどうせ大した事じゃない。
「幼稚園、行かなくちゃ」