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小林が幼稚園に着くと、ほとんどの子供たちが迎えの親に手を
引かれて帰るところだった。
急いで教室の方に行くと、息子が駆け寄ってきた。
「パパ、遅い〜」
「ごめんごめん。ほらっ、先生にさようなら言って」と言い、
自分でも「遅くなってすみません。さようなら」と言った。
「大丈夫ですよ。こうちゃん、いいね、いつもパパが迎えに来て
くれて。また、明日ね。」
幸輔は先生に手を振り、小林は軽く頭を下げ歩き出した。
小林は幸輔の手を握りながら聞いた。
「幸輔、あの先生、何て言うんだっけ?」
「れいこ先生だよ。パパ、まだ覚えられないの?」
幸輔は笑った。小林も苦笑いをした。
 
子供を送り出したれいこは部屋に戻った。
部屋の隅でまみが絵本を見ている。
まだ、熱はそんなに上がっていないみたいだ。
「ママ、まだ?」
れいこが戻ったのを見てまみが聞いた。
れいこはまみを膝の上に乗せ体温を確かめながら言った。
「うん。もうすぐ来るよ。さっき、お熱があるから迎えに
来てくださいって連絡したから。まみちゃんのママ、お仕事、
いそがしいもんね。でも、すぐ来るから大丈夫。先生と一緒に
待ってようね」
10分程して、まみの母親が来た。
「すみません。お客様が切れなくて。まみ、どうですか?」
「ちょっと元気がなかったので熱を測ってみたんですけど、
7℃でした。これから上がるかもしれないので気をつけて
あげて下さい。風邪も流行っているし」
「わかりました。先生、ありがとうございました。さっ、まみ、
遅くなってごめんね。帰ろう」
まみの母親は自宅の一部を美容室にして仕事をしている。
お客さんは、遠くに行けない年寄りとお付き合いで
行く数人の知り合いくらいだ。
美容師の資格を持っているとは言え、結婚して職場を離れ、
子供を育てている間、新しい技術を勉強した訳でもなく、
今時の流行の知識を持っているわけでもない。
お客はちょっと足を伸ばせば、都会的でお洒落な美容室に
行けるのだ。
まみ親子を見送り、部屋に戻り、絵本や遊具を片し始めた。
「もうすぐ雅也からキャンセルの連絡があるかな」
れいこはため息をついた。
れいこは6時過ぎに仕事を終えて、待ち合わせの公園にむかった。
雅也からキャンセルの連絡があると覚悟していたがなかった。
「来れないと言う連絡すらできないのかな。」
れいこは悲しい気分になった。
30分待って来なかったら帰ろう。と思った。
約束の時間を10分過ぎて雅也の車が見えた。
れいこは乗っていいものか迷ったが、雅也が運転席から
助手席のドアを開けてくれた。
「ごめん遅刻だ」
うん。大丈夫。まみちゃんはどう?
「そうなんだ。奥さんから連絡があって、少し熱が出てきた
みたいだ。
熱冷まシートを買ってきてって頼まれた。」
雅也は続けて言った。
「だから・・・ゆっくりできないんだ、ごめん。
ほんとにごめん」
「いいよ。来てくれないかもと思ってたのに来てくれたから
うれしぃ。ありがとぅ。私もまみちゃん、心配だし。」
「れいこ、すぐに、会える日決めて連絡するから。美味しい
もの食べに行こう」
「うん。楽しみにしてる。」
大事な話があるの。とは言わなかった。
まだ、後でいい。
雅也は身体を伸ばしてキスをした。
ついでに胸を触る。
うぅっ、気持ちいい〜〜〜
雅也とれいこ、両方が思った。
キスは段々と深くなり、雅也の手にも力が入る。
駄目だ駄目だ! 子供が熱を出して待ってるんだから。
また、ふたりとも思った。
雅也の手が胸から離れ、太ももに移った。
「このまま、家に帰るより自分との時間を選んでくれれば
いいのに。まみちゃんにはかわいそうだけど。」
れいこは願った。
が、その時に雅也の口も手もれいこから離れた。
「ごめん、帰らなくちゃ。」
「うん、そうだね。帰った方がいいよ。
じゃね、お大事にね。」
れいこが車を降りるときに雅也はもう一度謝った。
「ごめんね、気を付けて帰るんだよ。メール、するから」
れいこは雅也を見送りながら思った。最初から今日は無理って
言ってくれればいいのに。こんな中途半端な気分にさせて。
でも、わずかな時間でも会えるのはうれしい。
でも、早く帰らなくちゃと言う空気を感じるのは嫌だ。
複雑!
今夜はまみの事を夫婦二人で同じ気持ちで心配し、それに
ついて会話をし、自分達が親であること、夫婦であることを
自覚するのだろう。
こどもが熱があるのに、まさかエッチはしないだろうけど。
まさか?
雅也はハンドルを握りながら思った。
残念だったなぁ。
元気になってしまった自分の股間に手を置き、今日は駄目
なんだとなだめる。
食事をしてからホテルに行くつもりだった。
が、子供が病気では仕方ない。股間の熱よりまみの熱だ。
熱冷まシート・・・
雅也はドラッグストアーに向かった。
どうしようかな。歩きながられいこは空いてしまった時間を
どうしようか考えた。家に帰ってもひとりだし。
本屋の看板があった。
本屋と言っても店内の半分以上はCDやDVD・ゲームソフト
などである。化粧品や文房具も売っている。
れいこは看板に向かって歩きだした。
「本屋さんに行こう」
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