CDやDVDの間を通り、れいこは奥の本のコーナーに
  行った。女性向けの雑誌が並んでいるところで止まり、
  雑誌を一冊手に取った。
  “妊娠中の過ごし方”
  お腹の大きな女性がお腹に両手を当て、その後ろから
  男の人が女性を包み込むようにしてやはり両手を
  女性のお腹に当てている。
  れいこは自分には無縁な場面だと悲しくなった。
  妊娠は誰もが幸せになる訳ではない。

  いつ言おうかな。それともお腹が出てきて雅也が気づく
  まで話さずにいて、ひとりで産んで育てようかとも思う。

  れいこが、持っていた雑誌を棚に戻そうとして顔を上げた時
  棚の向こう側のDVDコーナーに見た事のある人がいた。

  四年程前に卒園した一樹くんのお母さんだ。
  一樹・・・確か木村一樹。
  わざわざ近づいて挨拶をするほどではない。
  向こうが、あの頃仕事に就いたばかりで何も出来なかった
  自分を覚えているかどうかもわからない。

  れいこは別の本を探し始めた。
  「これさえあれば大丈夫・ひとりで出来る安心御産!」
  みたいな本はないのか。と思いつつ今度は“幸せに
  なれる姓名判断”と言う本を手に持った。






  木村洋子はDVDを返しに来た。

  明日でも良かったのだが、一樹が野球に持って行く
  飲み物を買いに出たついでにこっちまで来た。
  一樹が借りたアニメのDVDを返却し、何か面白そうな
  ものはないかなと少し探したが、これといって観たい
  ものはなかった。

  本のコーナーに行こうと思ったが見覚えのある人がいた。
  一樹の幼稚園の時の先生だ。もう4年も経っているし、
  向こうは沢山の園児を見てきている訳だし、大人しかった
  一樹の事など、ましてその母親など覚えてはいないだろう。



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