ただ、一樹の野球があるから、顔を合わすことはある
だろう。それでも、大丈夫だと洋子は思った。
さっき、話しても気持ちは揺れなかった。
普通に世間話をする自信がある。
洋子が剛に未練がないように、剛も洋子を追うことは
ないとわかっている。
それほど薄っぺらな恋愛だったのだ。
次の日の土曜の朝、一樹のお弁当のおにぎりを3つ作った。
剛の分はもう、自分が作る必要はない。
良いお天気。風がなくて試合日和だね。
家を出るときに息子の運動靴がずいぶん汚れているのに
気づいた。
「靴、買わなくちゃね」
「うん。」
「今日、試合中に買い物に行くから買っとくよ。何センチ
だっけ?」
「23.5。」
「オッケー。わかった。」
いつもは自転車で練習に行くのだが、今日は試合で球場が
遠いので車で送って行く。試合と言っても4年生の一樹が
出る事はない。
せいぜいボールボーイか点付けくらいだ。
その間に買い物をしようと思っている。
練習場に着き車を止めるとグラウンドの隅に剛がいた。
そばに二人、やはり子供を送って来たお母さんがいて
楽しそうに話していた。
洋子は車から降りて「お願いします」 と声をかけようか
どうか迷ったが降りないことにした。
「いってらっしゃい。終わるころ、迎えにくるからね。」
「うん。行ってきま〜す。」
一樹が走って行った。
駐車場を出ようとしている時に車が一台来た。
サオリさんだった。洋子と同じように自分は降りず、
子供だけ降りていった。
サオリの子供は洋子の息子よりひとつ下だったと思う。
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